子どもを持ちたいと考えているカップルにとって、低精子数は大きな悩みの一つかもしれません。しかし、近年の不妊治療、特に体外受精（IVF）や顕微授精（ICSI）の技術は、希望をもたらしてくれます。本記事では、低精子数が妊娠に与える影響と、IVFやICSIがどのようにカップルの妊娠のチャンスを広げるのかについて詳しく解説します。専門医の意見を交えながら、生活習慣の改善や治療法についても触れていきます。

低精子数とは？

低精子数（オリゴスペルミア）は、男性の精液1ミリリットルあたりの精子数が1500万未満の場合に診断されます。精子が少ないと、自然妊娠は難しくなることがありますが、精子1匹でも卵子を受精させることは可能です。それでも、精子の数が多ければ受精の確率は高まります。

専門家の見解：

不妊治療専門医の中村健一医師は、「精子数は、宝くじの枚数に例えることができます。枚数が多ければ、当たる確率が高くなります。しかし、現代の不妊治療では、少ない精子でも妊娠のチャンスを広げることが可能です」と語っています。

低精子数の原因

低精子数の原因には、ライフスタイルや環境要因、医療的および遺伝的な要因が関係しています。それぞれの原因に応じた対策を講じることが重要です。

1. ライフスタイルと環境要因

• 喫煙やアルコール：喫煙や過度の飲酒は精子の質を低下させることが研究で示されています。生殖内分泌学者の佐藤麻衣子医師は、「妊娠を希望する男性は、喫煙をやめ、アルコール摂取を減らすことで、数ヶ月以内に精子の質が改善されることが期待できます」とアドバイスしています。
• 食生活と肥満：不適切な食生活や運動不足はホルモンバランスを乱し、精子の生成を減少させる原因になります。特に抗酸化物質（ビタミンCやEなど）を含むバランスの取れた食事は、精子の健康を保つために有益です。
• 熱とタイトな衣服：精子の生成には、体温よりも低い温度が必要です。頻繁に熱いお風呂やサウナを利用したり、タイトな下着を着用することは、陰嚢の温度を上昇させ、精子数を減少させる可能性があります。
• 有害物質への曝露：農薬や化学物質、重金属（鉛など）はホルモンバランスに悪影響を与え、精子の健康を損なうことがあります。特に工業関係の仕事をしている男性は、リスクを避けるために対策を講じることが重要です。

2. 医療的および遺伝的要因

• 静脈瘤（バリコセレ）：陰嚢内の血管が拡張し、血流が悪化することで、精子の生成に影響を与えることがあります。手術で改善される場合があり、精子数の回復が期待できます。
• ホルモンバランスの乱れ：低テストステロンや甲状腺機能低下症、下垂体の異常などは、精子数を減少させる原因となります。
• 感染症：生殖器に影響を与える感染症も、精子の生成に悪影響を与えることがあります。
• 遺伝的要因：遺伝的な要因も低精子数の原因となることがあります。例えば、クラインフェルター症候群やY染色体微小欠失は、無精子症や低精子数を引き起こすことがあります。

3. 年齢による影響

男性も40歳を過ぎると精子の質や数が徐々に低下します。女性ほど急激ではありませんが、年齢とともに精子の健康に影響が出ることがあります。

低精子数の診断

低精子数は、精液検査で診断されます。精子の数、運動性、形態が評価され、一度の検査で確定することが難しい場合もあります。複数回の検査が推奨されることもあります。

IVFとICSI：低精子数の治療法

低精子数がある場合、体外受精（IVF）や顕微授精（ICSI）は、受精の可能性を大きく高める治療法です。これらの技術により、精子数や運動性に関係なく、卵子に精子を直接届けることができます。

ICSIの効果

通常のIVFでは健康で運動性のある精子が大量に必要ですが、ICSIでは精子数が少なくても受精が可能です。ICSIの手順は以下の通りです：

1. 精子の選別：胚培養士が1匹の健康な精子を選び、卵子に直接注入します。
2. 精子注入：精子が卵子に自然に到達する必要がなく、ICSIによって少数の精子でも受精が可能になります。
3. 受精率の向上：ICSIでは、精子数が少なくても受精成功率が高くなります。

専門家の見解：

IVF専門医の吉田美香医師は、「ICSIは、精子数が非常に少ない男性にとって革新的な治療法です。わずかな精子でも高い受精率が得られるようになりました」と述べています。

IVFとICSIの成功率

IVFやICSIの成功率は、女性の年齢や卵子の質、男性の精子の質によって異なりますが、一般的には30〜50%の成功率が期待されます。多くのカップルが複数回のサイクルを経て、妊娠に成功しています。

まとめ

低精子数は決して絶望的な診断ではなく、IVFとICSIによって、親になるチャンスが大きく広がります。適切なライフスタイルの改善と専門医による支援により、カップルは希望を持ち続けることができます。吉田美香医師は、「男性不妊はもはや子どもを持つことの障害ではありません。正しい治療とサポートがあれば、希望を実現できます」と述べています。